QLOOKアクセス解析

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鑑賞090「そもそも」






泣くほどのことかよそもそもシドニーは地球だ、火星ならばまだしも
  小林ちい


そもそも、と言い出したなら最後まで責めておしまいなさいよ、時雨
  星川郁乃

両歌とも他者へ投げた台詞のなかの一語として、お題を扱っています。
これは「そもそも」が持つ<上から目線>感を和らげる方法として、
とても良いやり方と思えます。
「そもそも~」と話しかける対象を、
読者から第三者へとズラしているわけですから。

「そもそも世界は」「そもそも愛とは」と詠んでみたときの
説教臭さをどう消そうかと歌人は苦心するわけですが、
他に「そもそもXXは」のXXを卑近なものにしてみたり、
「そもそも」という語が持つ音の面白さを主眼に詠んだり、
いろいろな工夫があるのだと思います。

大上段にかまえて詠むとたいてい歌って上手くいかないですよね。



そもそも」の秀歌たち。
見事にお題が料理されています。


久哲
 初めからそもそも彼は飛べるのに週末にさえ籠から歌う

中村成志
 靴底で砕いた蝉は
 生物のそもそもの水
 滲みもせずに


富田林薫
 そもそもと切り出した後の静寂のコーヒーカップにかすか秋色

龍翔
 さようなら、ティッシュペーパー。さようなら、そもそもあなただったものたち。

飯田和馬
 もそもそもそもそもそもそもそもそうそもそもそううそもそ 起きなよ

清次郎
 やさしさもさびしさも波の形して広がっていく そもそもは海


(敬称略)
スポンサーサイト

鑑賞089「成」

」の秀歌たち。


浅草大将
 雲一つゆく冬空の青によし成らざるとても望みをば見む

酒井景二朗
 月光に成敗されて自轉車で下る道端白萩流る

小林ちい
 玄関に姉のトランク 明日には成田へ向かう姉のトランク

鮎美
 生まれつきおまへは三女姉のための振袖を着て成人式へ

T-T
 光合成している子らが跳ねている市民プールを過ぎ帰宅する

きたぱらあさみ
 So good communication. あたしたち平成うまれピコピコ育ち

久野はすみ
 ぐずぐずと成り下がりゆく一夜かな柿の実ひとつテーブルにあり


(敬称略)

鑑賞088「湧」








死者の眸のあまた開きて音も無く一掴の空雲湧かし居り
  船坂圭之介

死者の眼は、何を見ているのか。
これまでに亡くなった、知っているひと、知らないひと。
限りある生の、その向こう側へいった人々。
その一続きのものとして在る、自分。
生まれ来ることと、死にゆくことの狭間にある存在としての自分。
そんな生ある自分が今、空の一隅に湧いた雲を眺めている。
連綿と続く歴史の中で誰もが見たであろう雲、
そして自分だけが現在見ている雲。

「生の実感」を得る機会は二つあって、
ひとつは風を感じ、空の青さを感じ、陽光の暖かさを感じること。
そしてもう一つは「死」を想うこと。
生と死は同じものの二つの側面だからだ。
この一首にはその両方が詠われている。

死者の瞳は<わたし>を見つめ、<わたし>もまた死を見つめているのだろう。



」の秀歌たち。


今泉洋子
 木洩れ日の濃淡君とわけ合ひて湧き出る水のかがやきを汲む

清次郎
 山に雲改札に人は湧き出でて かなしみなんてどこにでもある

鮎美
 ふつふつと湧きあがりくる憎しみを それはそれとして今日を過ごしぬ


(敬称略)

鑑賞087「閉」







埠頭の排水口に
甲虫は吸われて吐かれ
もう閉まる夏

  中村成志

浮かんでいる虫の死骸が、水面の上下動によって港の排水口を
出たり入ったりしている、そんな夏の終わりの情景です。
甲虫が波に翻弄されて排水口の内外を行き来する様が、
「吸う・吐く」という二語で的確に描写されてる。
このピタリと語を当てはめるセンスがすばらしい。

初句四音というあまり無い形ですが、ここにはこの語しかハマらない!、
という潔さがあり、結句字足らずより好きな詠み方なんです。
この一首は、三行に分かち書きされ、二句目以降がきっちり定型で詠まれているので、
初読でも戸惑うことなく読めるのではないでしょうか。
私も今回、初句四音の歌を二首投稿していますが、
自分の場合は初句の後に読点やスペースを入れたりします。

定型を意識してさえいれば、初句四音も選択のうち、というお話でした。



」の秀歌たち。


廣田
 夕立が過ぎゆく空を仰ぎ見て傘を閉じればふたりに戻る

久哲
 閉じこんでしまった夜の言い訳にらりるれろとか使えないかな

酒井景二朗
 やはらかく閉ぢたる瞼觸るるごと名も知らぬ實を撫でて行く道

ちょろ玉
 ゆっくりとまぶたを閉じるこれがもう最後のまばたきかもしれないし

北爪沙苗
 物言わぬ常を考え女子力を閉じてしまえばラーメン二郎

雑食
 閉じた目がふたたび開くそれまでの時間を俺にくれたのだろう

月原真幸
 ケータイを閉じて開いてまた閉じる 言ってはいけないことを言いたい


(敬称略)

鑑賞086「貴」

」の秀歌たち。


紫苑
 貴石なと身に沿はざればむらさきの水晶ひとつ胸乳のうへに

千束
 木苺で指先染めた春も過ぎ見送るだけの貴女のうなじ

南葦太
 故郷を失くした人の目指す海 捩れの位置の貴種流離譚

奈良絵里子
 貴重品袋を信用しすぎです 生きてるものは外に出すこと

ウクレレ
 貴婦人でなくていいから闊歩せよ働く女の5カラットの汗

星川郁乃
 ありふれた日々ですわりと平穏なくらしです半貴石のような


(敬称略)

鑑賞085「フルーツ」








フルーツを乱切りにして角ごとの秋を味はふ一人の夜は
  みずき

自分のために乱切りにした果実、柿かリンゴでしょうか、
その食感を確かめながら一人でいる、という歌です。
話し相手がいれば「ゴツゴツしてるね」などとなんとなく言い合って、
気にも留めない日常の一瞬になるんだけど、秋の夜に一人となれば、
ひとつひとつの味や舌触りを、よりふかく噛み締めることになるんでしょう。
乱切りされた果実の角が口に当たるのは誰しも憶えがあることだけど、
それをパッと言語化できるかどうか。

すんなり詠みきられた、スタイルの良い歌ですよね。
もってまわった言い回しも、ゴテゴテした修飾もない。
こんな一首をさっとものに出来たら、短歌の力も熟してきたと
実感できるんだろうな。
果実がほのめかす安易なメタファーに頼らずとも
スマートないい歌は作れるのだ、と反省させられました。



フルーツ」の秀歌たち。


津野
 籠盛りのフルーツの色は鮮やかに白き部屋には白きカーテン

南葦太
 飾らずに食べなきゃ甘いフルーツであった以上は腐るのでしょう

ワンコ山田
 「サイテー」がまだくちんなか蠢いてフルーツ牛乳噛んで飲み干す

揚巻
 おさまらぬものもおさまるべき皿へフルーツはみずみずしい誤解

遥遥
 フルーツはいかがでしょうかフルーツはいかがでしょうか愛があるから

奈良絵里子
 手でむいたグレープフルーツ苦くない ひとふさあなたの口へ入れます

清次郎
 霧の朝 グレープフルーツ専用のスプーンがあった記憶 零れる


(敬称略)

鑑賞084「総」

」の秀歌たち。


横雲
 山間(やまあひ)に隠れ咲きたる総桜(ふさざくら)雪のひと(くれ)消え残したり

行方祐美
 総手折りあす発たむ人に降れる雨ほそくかがよふ言葉となりつ

梅田啓子
 総国(ふさのくに)ちちふさ垂るる母の国ことしも枇杷がゆたかに生れり

ミウラウミ
 総勢672人の生徒たちの死体置き場のような下駄箱

中村成志
 夕暮れの総ての蝉よ
 降り積もれ私の中に
 きちきちと鳴れ


きたぱらあさみ
 隣人も他人も総理大臣もみな殺しです 泣いてもだめです

竹中 裕貴
 このほしの総てに星の降ることもだまっていたらみちていく水


(敬称略)

鑑賞083「溝」

芸術鑑賞において、
「尖った表現を求めるあまり、奇異な描写をすること自体が
 目的化しちゃってるんじゃないの」
とか、
「なんかよく分からない表現で、いかにも狙ったアートってカンジ」
みたいな評は、たとえば現代美術なんかにはつきものだと思うし、
自分自身、似たような感想を抱くことも、ままあります。
短歌でもそうです。

思うに、ぼくらは共通解を求めすぎてるんですよね。
「この作品で著者が訴えたかったことは何か。次から選べ」
「主人公がこのように行動した理由を述べよ」
などといった思考法に慣らされていて、「公式に正しい答えがあるのだ」と
無意識に思い込んでしまうんでしょう。
そしてもっと悪いことに、そのありもしない公式解に怯え、
間違うことをひどく恐れ、恥ずかしがっている。

だから、公式解を出しにくいような表現にぶつかると、
冒頭に上げたような反応を見せてごまかすことになるんじゃないでしょうか。

 ちょっと脇道。
 特にネットでは顕著だと思いますが、
 「短歌は発表されるばかりで批評の場が極端に少なく、バランスを欠く」という現象は、
 <自分の読みは間違ってるんじゃないか>という恐れが大きな原因の
 一つではないでしょうかね。

 でも。
 自作を発表するだけ発表して、あとは野となれ、でホントにいいのかな。
 題詠ブログでは毎年2~3千の歌が提出され、そしてほとんどそのままに
 置き去られてゆく。これらの歌、ほんとに読まれてるんだろうか。
 みんなもったいないと思わないのかな、この場が。
 批評や鑑賞とまで肩肘張る必要はない、別に感想でいいじゃない、
 他者の作品を読んだ印象を、ちょっとでいいから吐き出したらいいのに、
 と思うんだけど・・・


閑話休題。
えっとつまり、不思議な作品に出会ったときに、
「ワケわかんない」とか「この作品の答えはなんなの?」とか
「作者は何を言いたいの?」等と正解を求めるんじゃなく、
「私はこのように感じた、こう思った!」
「俺にとって、この作品はこういう意味を持っている!」
なんてことを声高に語る方が、有意義だよね、ってことです。

反対に言えば、詠むときも「百人にひとり、そのひとりに届けばいい」
くらいの心構えでいいのかもしれません。
類型歌をたくさん生み出すよりは、ね。
(今回も人間関係のについて詠んだ歌が
 やまほどありましたが、これは!という歌は…あったかな?)

いつも取っ散らかった文章でごめんなさい。

     *  *  *








深さ二メートル排水溝の底に咲くヒマワリを見た夏、の恋人
  平野十南

さて、今回の一首にいきましょう。

体言で終わる歌を詠むのは難しい。
大概が、ある事物/瞬間をとらえたスチル写真みたいな作品になり、
観察力にあふれた深い描写が出来なければ、「で?だから?」
「これがなんなの?」といった感想を招きやすい。
美しい情景が描かれていれば「きれいだなぁ」という感慨を抱くことはできるけど、
それ以上にはなりにくい気がします。

この一首が優れているのは、カメラワーク。
深い排水口の闇へズズッとズームしてひまわりをとらえ、パッと大きく季節へ移り、
最終的に詠まれていたのはかつての恋人だったというこの切り替え、
静的な描写に留まらないことで、読み手を気持よく振り回してくれます。
暗い溝のなかに咲く花が、恋人のイメージへとつながっていくとは、
誰が想像するでしょう。

排水溝から恋人まで、その飛躍の隙間に読み手は
それぞれの思いをいれこむことができます。
そうして初めて作品は作者から読者へ手渡されるのではないでしょうか。

初句から四句までが、結句にある名詞を説明的に修飾しただけの歌にしないための工夫。
体言終わりの歌を詠むときのポイントと思います。



」の秀歌たち。


tafots
 外国の海溝にまだゆっくりと沈み続けるピアスの小鳥

廣田
 海溝にしずむひとりの教室でコールタールの比重を量る

夏樹かのこ
 側溝の桔梗一輪あでやかに冴えて少女が自転車を駆る

東雲の月
 側溝に落ちた車は無念さを傾いだ角度で訴え続ける

龍翔
 私たちの子どもに成り損ねたものを排水溝に流しましょうね

雑食
 今日からは二人で溝を掘ってゆく婚姻という契約のもと

黒崎聡美
 戸の溝にたまる埃を取り除き日々暮らしゆく遠さを思う

珠弾
 カンボジア国籍取得猫ひろしどれだけ速く走っても溝

藤田美香
 大勢が往く道をまた踏み外し溝には溝のかみさまがいる


(敬称略)

鑑賞082「万」

」の秀歌たち。


船坂圭之介
 万巻の書に埋まりて眠りたし死とは無限の夢とこそ知れ

オリーブ
 万華鏡の今、このかたち見せたくてかたまったまま君の名を呼ぶ

酒井景二朗
 廢屋に錆の浮きたる萬力が空氣をつかむ笑ふがごとく

芳立
〈蒼黒筆跡〉 子も孫も継げとろくでもなき父の万年筆のあと蒼黒き

北爪沙苗
 我が友の沈む地上に落ちる陽よ万のことも過ぎれば夢か

穂ノ木芽央
 革命が終はり新調するための織機を調達する 万国旗の

飯田和馬
 万能と呼ばれる葱の細さなど白々と見て言い過ぎている

藻上旅人
 数百万年前に 人が生まれて このかた 恋しさは 変わらぬ

清次郎
 万博を最後にモリゾーキッコロと森に消えてった僕の勇敢

みち。
 ああこれは万年雪ですね、と僕のレントゲンを見てせんせいが言う


(敬称略)

鑑賞081「配」

ぐぬぬ・・・ 選のみ。

」の秀歌たち。


久哲
 秋口に沓脱ぎ石を配置する そこからお上がりなさい花嫁

じゃこ
 あの人にもらってほしいおみやげをしゃーないおまえたちにも配る

雑食
 誰にでも平等に死は配られた分娩室の奥の奥まで

揚巻
 配られる価値もなかった種子たちをあなたのなかにためる 水音

ひぐらしひなつ
 そのさきに夏の雲立ち大股のあなたを追って走る勾配

さくらこ
 駅前でティッシュを配ることにした夜はあなたがいない楽しさ

T-T
 人の気配しない階段見上げてる 上から静かに秋が満ちていく

久野はすみ
 とりあえずすました顔で配られる荷物の中のあまた欲望


(敬称略)
カミソリーフ
題詠blogへの投稿、選歌、鑑賞。
お気軽にコメント下さい。
     powered by 涅槃 ver.2
理阿弥(りあみ)



ツイッター: Assam_Occam


 歌歴:08年より。
 口語でも文語でも。

カテゴリ
ブログ内検索
now Loading...
リンク
新しい記事
コメント
トラックバック
月別アーカイブ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。